ねじ山日記 切削ねじと転造ねじ 徹底的に比較してみました!

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rolling and machining thread comparison

皆さん、こんにちは!阪神ネジの山里です。早いものでもう年末ですね。今年は、自分の中で心と体が大きく変化した年だったと感じています。心の変化は人間としての変化と言いますか、自分が活躍しても次に繋がらないという感覚です。次の世代へ良いものを残していきたいという思いが強くなってきました。体の方は(これは前からですが)太った?!だけでなく、新たな国への挑戦のため体が移動しました(笑)

今回のテーマは「切削ねじと転造ねじ 徹底的に比較してみました!」です。正直、このテーマはねじマニアックな話です。ねじ山を作る方法の2大巨頭がこの切削と転造です。切削というのは文字の通り、旋盤を使って切って、削ってねじ山にします。転造というのは、転造盤という機械を使いダイスの凹凸を押し当ててねじ山を盛り上がらさせて作ります。その手法そのものの詳細は、以前のブログをご参照いただけたらと思います!(参照:ファスナーねじ部の解剖学 : 「切削ねじ」と「転造ねじ」ってどう違うの?

 

一般的に、転造ねじの方が鉄の繊維を切っていないので強度が強く、またねじ山のバリなども少ないので滑らかで良いと言われています。私たちも切削ねじだとねじが折れてしまうお客様にはできれば転造で作ることを提案しています。ただ、実際のところはどうなのか?数値的にどう違いが出るのかを今回検証してみました。皆さんのモノづくりの何かにお役に立てたらうれしく思います。

1回戦 強度対決!

鉄の繊維を切ってしまっている切削ねじと繋がったままの転造ねじで強度の違いが数値であらわれるか引張試験、せん断試験をして実験してみました。
実験方法は転造で作っている強度区分10.9六角ボルト サイズM16X100(市販品)とねじ部を切削で作った全く同じ強度区分、長さのボルトを破断するまで引っ張ってボルトの引張強度を確認してみました。

■引張試験比較


・転造ねじ 171.85 KN (1094.5N/mm²)

・切削ねじ 177.40 KN (1129.9N/mm²)

いずれの製品も引張強さは満たしています。ただし破面に差がみられ、切削ねじの方は伸びることがなく破断しています。切削ねじの特徴的な破断の可能性があります。

引張試験
・くさび無し
・規格:最小163KN(1040N/mm²×157 mm²)

 

■せん断試験比較

次にせん断試験をしてみました。切削ねじと転造ねじの違いは、ファイバーフローが切れているのか、繋がっているのかの違いです。イメージ的にですがせん断で差が出るのかと仮定しました。ただ、下記の結果の通りこの実験でも差は出ませんでした。

試料① 10.9六角ボルト(転造ねじ)
試料② 10.9六角ボルト(切削ねじ)

せん断試験の様子(JQA様提供)

2回戦 拡大鏡で表面比較

弊社の協力工場は腕がいいので(笑)切削ねじでも人間の見た目には非常に綺麗に仕上がっています。それを、拡大鏡を使って転造ねじと比較したらどんな違いがあるのか見てみました。使用した拡大鏡はKEYENCEのVHXシリーズです、この機械はめちゃくちゃ高くて、まだうちには高嶺の花ですが、品物の表面をめちゃくちゃいい感じに見れますね。
早速ですが、切削ねじの表面はこんな感じです。

どうしても細かいカエリ、バリがあるのが分かりますね。

一方転造ねじの表面はこんな感じです。

ダイスを押し当ててねじ山にしているからだと思いますが、カエリやバリは全くありません。
この表面の違いで言えることは、ねじの一番大事な要素は締結力、つまり設定したトルク通りに締めたときに期待通りの軸力が発生しねじが緩まないことだと思います。表面が滑らかな転造ねじは、トルクが変なところ(カエリなどの引っ掛かりなど)に奪われず、期待する軸力が発揮される精度は高いように思いました。

また細かな話ですが摩擦力もしっかりと相手側と面と面で接地できる可能性が高く、ねじの緩み防止という観点でも転造の方がよいと考えられます。
ちなみにこの拡大鏡こんな打痕(だこん)まで見えちゃいます(泣)

 

まとめ

今回切削ねじと転造ねじの比較を、強度と表面の観点で実験してみました。強度については、引張とせん断の試験では大きな差を数値でつかむことはできませんでした。ただ、一時的な力では差は出ないが、繰り返し力を掛けるような耐久テストをしてみたらどうなのか、緩みに対する差は出るのか出ないのか?などねじを実際に使用されている環境に応じた試験をしてみる必要があると感じました。

また、切削ねじの方がサクッと作れるし、特殊なねじでも相手のねじがあれば作れるなどのメリットもあり一概にどちらがいいとか、悪いとかではありません。使用方法、使用される本数、もし問題が起きているならどんな問題なのかによって使い分けするのがよいと思います!

個人的には、ほおずりしたくなるような転造ねじの輝きが大好きです!(笑)

ご一読いただきまして本当にありがとうございました!もしご意見、ご感想がございましたら是非お便りいただけると幸いです。私もまだまだねじ道の道半ばです。色んな意見をいただきご指導いただければ幸いです。